/[リレーエッセイ]誤解されないように伝えたい。(後藤 有)

[リレーエッセイ]誤解されないように伝えたい。(後藤 有)

プラザ大分の電波塔からバトンを受け取りました、佐伯印刷の後藤と申します。様々な業種で構成されているプラザ大分ですから、私の仕事の話から始めたいと思います。

5年ほど前まで私は営業職だったのですが、今は工場内で制作管理の仕事をしています。
制作管理というのは印刷機を見張っているのではなく、デザイナーやカメラマン、モデルの手配を始め、原稿のチェックや書き直し(リライト)など、制作全般のコントロールを行います。
最終的には納品日に間に合うように進行を管理して印刷工場へ完成データを渡すまでが守備範囲で、世間では「ディレクション」と言われている作業です。
その他にも企画コンペ用の企画立案や企画書作成、プレゼンテーションなど多岐にわたる仕事を担当していますが、共通して大切なのは「物事を誤解されないように正しく伝える」ことだと思っています。

伝えることは難しい
仕事だけでなく普段の生活でも、自分ひとりで生きているわけではない以上、他者に「伝えること」はとても大事で、同時にすごく難しいものです。
こちらが伝えたつもりでも「聞いていない」と言われることもあれば、正しく伝わらずに誤解されていることもありますから、私はいつも「伝えた」ではなく「伝わったか」を意識するようにしています。

前回の河野洋介さんのエッセイで言えば「前」という指示を出しても「哲也1号」が前に進んでくれなければ「伝えた」とは言えません。
操縦者の指示が伝わったかどうかは「哲也1号」だけが教えてくれます。伝えたかどうかではなく、「伝わったかどうか」なのです。

印刷業界ではゲラ刷りに赤字で修正指示を書き込んで作業の指示をします。修正指示を書き込んだものを「校正紙」と呼びますが、私は自分が作った校正紙を10人のオペレーターに渡して作業させたときに、8人くらいはこちらの意図通りに修正してくるように心がけています。
(残り1名はこちらの想定以上のすごいデザインを上げてくれて、最後の1人にはこちらがどんなに頑張っても伝わらない。そんな気がしています。)
いろいろな指示の出し方もあると思いますが、私が気を付けているのはこんなことです。

◆相手に余計な判断をさせない
曖昧な指示だと作業者が迷ってしまいます。作業者が自分で判断しなくて済むように正解を示すようにしています。校正紙に赤字で「これ間違ってない?」と書き込まれていることがあります。間違っているのかもしれませんが「どのように修正するのか」を書いてあげないと作業者は途方にくれます。
例外は新人教育です。自分の中で想定している正解を新人に示さずに「求められている結果」だけを伝えています。新人には「自分で判断」する訓練をしてもらいたいですから。

◆相手が読める字で書く
書き込まれた指示の内容を相手が読めなければ当然伝わりません。私は悪筆なのですが校正紙を作るときは悪筆なりに「丁寧に」書くようにしています。
読めない字を書きなぐって相手に渡すことは、極端に言えば「暴力と同じ」だと自分に言い聞かせながら文字を書いています。(文章で説明しづらいところは図を描いて伝えます。)

◆とにかく見返す
この校正紙を「10人が見たときに8人は意図通りの修正をしてくる」ようになっているか、必ず見返します。これは校正紙に限らず、メールや文章でも同じで、事情を知らない人が読んでも理解できるかどうか、間違った漢字変換で意味が通らなくなっていないか。そんなことを思いながら、できる限り読み直すようにしています。

以前、夜遅くに持ち帰ったお客さんからの校正紙を「大急ぎで現場にメールで送らなくてはならない」ことがありました。メールのタイトルに「内閣府 今夜戻り分」と入力したつもりだったのですが、見直さずに送ってしまったら「内閣府 今夜もドリブン」という変換になっていて恥ずかしい思いをしたっけな。
(夜の高速道路で真っ赤な口紅のお姉さんが、内閣府の官僚に「お願い、今夜はもっと飛ばしてよ!」と言ってそうな…)
読み返さないとこんなことも起こるのです。

便利な箇条書き
企画書の書き方講座などでは、よく「企画書はラブレターを書くように作りなさい」と言われます。
ラブレターを書くときには、思いが伝わるように一生懸命に言葉を選び、間違いが無いように何度も読み返すことでしょう。
「伝える」ということは本来そのくらいの情熱が必要なのだろうなと思いますが、いつもそんな情熱をキープできるわけもなく。
じゃあどうするかと思ったときに、小手先の方法として私がよく使うのが「箇条書き」です。
箇条書きのラブレターはあり得ないですが、仕事の上では許されます。

ビジネスメールも内容を誤解されては信用問題になりかねない、覚悟が必要な文章です。
メールは1行が長くなりがちですから、たくさん改行したほうが読みやすいメールになるかなと思っていたら「箇条書きでいいんじゃないか」と思い至りました。
それからは依頼したことの期限や依頼の内容などは箇条書きにするようにしていて、下手な長文を書いて相手を混乱させてしまうくらいなら、むしろ箇条書きの方が歓迎されるのではないかと思っています。

長い文章を書く時も、最初に書くべき内容を箇条書きで書き上げてしまうようにしています。
そうしておいて、必要な要素をふくらませたり不要な要素をカットして、伝えたいポイントをハッキリさせていきます。
同時にそれぞれの文章を繫げたり順番を入れ替えたりして長い文章の骨組みを作ります。
後は何度も読み返して、誤解されない文章をめざして納得いくまで書き直します。

いいこと尽くしの箇条書きですが、話題がとりとめなく広がってしまうことが多くなるため、文章をうまくまとめて終わらせることが難しくなってしまいます。
このエッセイも、どうまとめてよいのやら…。

ただ、いつもこんなことを考えているので「言葉の魔術師」などとおだてられると「自分は間違ってなかったのかも」と、何だかうれしいです。

 

■会社名:佐伯印刷㈱
■氏 名:後藤 有
■プラザ大分会員歴:4年目
■入会のきっかけ:会社に会員募集のFAXが届き、弊社の社長から入会を勧められました。
■プラザ大分に入会してよかったこと:自分の知らない世界を垣間見られること。魅力的な方ばかりで、うれしい出会いも多いです。
■次回執筆者の指名:同期入会でプラザ大分の若きエース小野晋太郎さん。ドラム叩いて嵐を呼んでください!